なぜ人は争うのか
―衝突調整法―
”なぜ人は争うのか”、今号では、この素朴な問いかけに対する答え探しと、争いを解決するための”衝突調整法”を考えてみましょう。
まずは、以前、注目されたホロニック・マネジメントという言葉をヒントに答え探しをスタートです。このホロンという言葉は、ハンガリーのアーサー・ケストラーが作った造語で、ギリシャ語の“全体”を意味する「ホロス」と“部分”を意味する接尾語の「オン」をつなげたものだそうです。この組み合わせが意味するように、ホロンとは、”ある一部分”が、自立している、自由である存在であると同時に、全体とのバランスもとりつつ、調和して存在する状態を言います。
例えば、私たちの身体は、心臓は心臓として独立して機能し、肺は肺として独立して自律しながら機能しつつ、身体全体の生命機能を維持するという目的に従って存在しています。具体的には、細胞一つひとつが、増殖の機能と抑制の機能の両方のバランスを取りながら、情報の交換をしつつ、生命体を維持しています。ところが、癌細胞だけが、癌細胞同志では情報交換しながら、他の正常な細胞とは情報交換を拒否するために、増殖抑制の信号が来ても受け付けないまま増えつづけ、ついには、生命体そのものの死滅を引き起こすことになります。もちろん、癌細胞自体も生き残ることはできません。
このことから分かるように、自分の都合を優先する生き方は、目先のことだけを考えるなら、まさに自分にとって好都合のように見えますが、長い目で見るなら、周囲全体が自己都合を優先する組織に変貌する結果、世の中から、組織そのものが存在を許されない、廃業・倒産への道につながることになります。
このように、家庭においても社会においても、私たちには、各々に与えられた「役割」というものがあります。その役割のことを普段「立場」と称しているのです。立場は、時代とともに変化して行きます。父親の立場は、戦前と戦後では、180度変わったと言えましょう。嫁と姑の立場も、以前は、嫁が姑に気を使っていたのが、今では、姑の方が、嫁に気をつかうケースが増えています。
立場は、絶対的なものではなく、時代や地域、所属、肩書等によって様々に変化して行きます。戦後の私たちの時代は、社会が権威づけてくれる立場の崩壊といえましょう。家長としての父親の権威ある立場からの追放、聖職といわれた先生の権威の失墜等があります。さらに、立場というのは、なかなかその「立場」になってみないと本当には理解しきれないということがよくあります。なぜなら、私たちは、「自分の立場」でしか物事を見ることができにくいという傾向をもっているため、容易なことでは相手の立場に立つことができません。
このように、衝突が生まれるのは、立場と立場の間のぶつかり合いであるということです。「立場の違い」がその背景にあるのです。
立場とは
◎利害が異なる
◎価値観が異なる
◎視野の拡がりが異なる等
衝突しやすい要素を持っています。多くの場合、立場が違うのは当たり前ですから、衝突が起こることを覚悟しなければなりません。ぜひ、”衝突調整法”をお勧めする理由がここにあります。
まずは、衝突の問題が発生した時点で、必ず確認したいことは、「何と何の衝突か」を明らかにするということです。
希望するビジョン(戦略)の衝突なのか?
例えば、一方は「離婚したい」と希望し、一方は「離婚したくない」と希望して、ビジョン(戦略)が真っ向から衝突しているようなケースなどが該当します。
ビジョンは一致しているが、方法、手段(戦術)の衝突なのか?
例えば、双方とも「離婚したくない」は一致しているが、一方は「休日はゴルフへ行きたい」と希望し、一方は「休日は一緒に温泉に行きたい」と希望して、方法、手段(戦術)が衝突しているケースなどが該当します。
希望するビジョン(戦略)が衝突しているケースは、裁判所などの第三者の裁定が不可欠になるでしょうが、方法、手段(戦術)が衝突しているケースの場合は、いくらでも話し合いで解決することが可能になります。
以上のことから分かるように、”衝突調整法”を活用して、衝突を回避し、相互の立場の理解を推進する鍵は、「異なる立場の共通点」を見つけて、そこから相互の関係をスタートさせることに外なりません。その上で、相手の主張がどんなに、理不尽に聞こえても、「なぜ、相手は、そのように主張するのか」その背景や要因を探りだすことになります。
”衝突調整法”とは、「相手の立場に立つ=相手の主張の根拠を理解する」ことから始まることを忘れないようにしたいものです。
(文責:株式会社総合教育研究所 石橋正利)